ブログ版 マイルスとの2時間(1)

ぼくがJAZZについて雑誌に書いたもののなかで、「あの雑誌とってないの?」とか「あったらコピーしてよ」と言われるのが、マイルス・デイヴィスのインタビュー。月刊「プレイボーイ」と「JAZZ LIFE」に書いたものだが、ぼく自身にとっても鳥肌が立つような時間であった。要望にお応えして、なんて言うほど要望されてるわけじゃあないけれど、今は亡き帝王からもう一度エネルギーをもらうためにちょっと手を入れ直してこのブログに再録してみることにしたい。

ブログ版 マイルスとの2時間(1)

偉大なミュージシャンはたったひとつの音を出すだけで、音楽の全体像をイメージさせてくれる。ソニー・ロリンズは”ブワァー”とひと吹きするだけで充分に官能的だし、ビル・エヴァンスの高音部の一音は、美しい薔薇の棘のような危険な魅力が溢れている。ではマイルス・デイヴィスの場合は・・・ひとつの音すら出すことなく、立っているだけで、あるいはステージ上を歩くだけで、あの複雑で屈折した音楽をイメージさせてくれるのだ。この感覚は一体何処から来るものなのかと、我ながら不思議な気分になって、ピアニストの渋谷毅さんに聞いてみたことがある。
「ワン・フレーズ演奏して”JAZZだあー”って感じさせてくれる人っていますよねえ」
「うん、いる」
「ぼく、時々渋谷さんのどうでもいいような最初の”ポーン”っていう音に”わー、JAZZ”って感じることがあるんだけど、あれどうしてなんでしょうね?」
「あ、あれね。企業秘密なの」
ま、この一言でピットインの楽屋は大笑いとなったのだが、
「じゃあ、立ってるだけで音が聞こえてくるマイルスみたいのは?」
と聞いたら、とんでもない答えが返って来た。
「それはね、地球上の出来事じゃあないんだよ。どっか違う惑星の出来事なの」
渋谷さんの眼も、そこに居合わせたミュージシャンたちの眼も笑っては居なかった。
ぼくは異星人ととんでもない2時間を過ごしてしまったのだ。

この記事へのコメント

chi-B
2006年06月21日 13:31
いまこの記事を発見し、あまりにも遅すぎるコメントを送ります。この続きが知りたいです。

私が愛し尊敬するミュージシャンは数多おられますが、とくにこの世のものではない位にAwesomeだと勝手に決めている三人が居ます。(すごく究極の個人的な視点からの話ですが)それは…Prince、masta.G(私のプロデューサー兼ドラマー兼すべてにおいての師匠的存在)、そしてMiles Davisです。。。

言葉ではついていけない大宇宙を感じる人々であり、音楽そのものである人たちです。とても共通点を感じます。

若き日の悪名高きダーティーな頃のPrinceを、「あいつは面白い。」と、彼の本質を見抜いたMilesのアンテナの鋭さ。晩年、二人が競演したLIVEをネットの映像でやっとこさ見つけたときの感激!テレパシーで会話してるようでした。Milesの音とPrince&NPGのJazz Funk的な即興演奏。吹いてる最中のMilesのほっぺに顔を寄せて「笑顔でチュ~するふり」はPrinceならではです。(そうしつつも、バックバンドに指示だしてる冷静さ)
chi-B
2006年06月21日 13:37
masta.Gは中学生の頃からMilesのファンで、他の音楽なんてアホらしいと思ってたそうです。そんな子供の頃に、来日した彼に、ドキドキしながら「さいん、ぷり~ず」とお願いして書いてもらったAutographは今も家に隠し持ってはります。w

Princeのへんなロックやポップスはけなしますが、もっとcoreなJAMをHouse Of Bluesでアフターパーティーに誘って見てもらって以来、やっと分かってくれました。「この人、だいぶん誤解されてんな…」と。

この記事に続きも書かれているようなので、今からそれを探しに行きます。
chi-B
2006年06月21日 13:54
masta.Gを三人の中に入れたのは、他の人から怒られるカモシレマセンガ、あとのお二人(Prince&Milesさま)にはきっと許してもらえると思います。(ややこしい?)そんな独特の共通点なんです。ファンの方々、ごめんなさい。
IKEGAMI
2006年06月21日 15:22
chi-Bさんコメントありがとう。
そうかmasta.Gはマイルス教だったんだあ。ぼくもマイルスから貰った絵を隠し持ってます。(兄にあげちゃったんだけど、死んだので戻って来ました)
この記事の続きが遅れてますが、引越しが完了したらアップします。待っててください。
トキワ
2006年06月23日 00:21
IKEGAMIさんのマイルス・インタビューは、私の座右の一つです。いつかこのようなアーティストに肉迫したインタビューをしてみたいと思いつつ、なかなかそうはならないのが反省です。6/24発売の月刊プレイボーイが、「マイルスとジャズの80年」というタイトルで(今年マイルスは生誕82年没後15年です。早いものです。)、私もなぜか撮影ではなく「TUTU」のアートディレクターを務め、アルバム・パッケージ部門でグラミー賞を受賞した石岡瑛子さんのインタビューをしました。マイルスとの、濃密なフォトセッションの様子を語ってくれなかなか面白かったです。また、石岡さんに、何か最新のジャズを聴きたいと頼まれ、JVCジャズ・フェスで出演していたマーカス・ミラーのライヴに、ご案内したところ、アンコールの最後で、マイルスに捧げる「TUTU」を演奏するという一幕もあり、石岡さんも感無量だったようです。私もマイルスは、もちろんライヴは何回か聴いてますが、ボトムラインですれ違ったことはあります。そのときに強烈なオーラを感じました。マイルスは、まだまだそのオーラに触れた人々の中では生きているのでしょう。

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