Time with WAR #4

Tori's Triangleと共同掲載のWARの話、第4回をお届けする。ぼくにしては異例のスピード掲載。楽しく読んでいただければ嬉しい。



WARのマネージャーであるスティーブ・ゴールドから「来ないか?」といわれたコンサートは、会場がサンフランシスコの「グレート・アメリカン・ミュージック・ホール」。バルコニー席のあるホールで、キャパは300人くらい。コンサート・ホールとしては小さめ、ライブ・ハウスとしては大きめのぼくの好きな音楽会場のひとつだ。この時期のWARは『世界はゲットーだ!』の大ヒットもあって、コンサート会場は大きな所が多かった。「どうしてグレート・アメリカンでやるの?」と聞くと、「いや、今回はリー・オスカーの知り合い(リーはサンフランシスコに住んでいたことがある)がやらないかっていってきたんだ。まあ、いま曲を作ってるとこだし、明後日、LA市制100周年の大きなコンサートがあるからそのリハーサルも兼ねてね」ということであった。チャーターの小さな飛行機で行くので、朝、リーがホテルまで迎えにきてくれることになった。

で、翌日。約束の時間にロビーに下りて行くと、もうリーが来ていた。
「ヘイ、イケガミ、おはよう。今日はオフになったから、家に来ない?」
ん、どういうことなんだ? 話を聞くと、コンサートはキャンセルになったらしい。当日のドタキャンってあるんだあ。
「ああ、アメリカじゃあよくあるよ。理由は、チケットの売れ行きが悪いとか、出演料のデポジットが届かないとか、いろいろだけどね。今日の理由は、よく分からないなあ」
と、涼しい顔をしている。

アメリカでは赤字が予想される場合、コンサートを強行した場合の赤字と、キャンセルによる出費を天秤にかけて、プロモーターがリスクの少ないほうをとるのである。具体的な事例を示そう。ウェザー・リポートが結成されて間もないころ、まだ彼らは大きなホールに聴衆を集めるほどの知名度はなかった。ところが、彼らのマネージメントである「キャバロ・ルファーロ」は人気グループのアース・ウィンド&ファイアーを抱える大きなマネージメント・オフィス。このオフィスがウェザーをなんとかしようと決めた時、アースの威光をバックにツアー・スケジュールをきったのだ。つまり、地方のイベンター(プロモーター)を脅すのである。「○○月の○日、ウェザー・リポートをよろしくね。頑張ってくれれば、来年のアース、回してあげるからさあ」といようなプッシュをするのだ。もちろん、アメリカのことだから分厚い契約書には自分たちの有利な条件が書かれている。例えコンサートがキャンセルされても、ペナルティとしての支払いをすべしという条項があるわけだ。さて、まだ集客力のないグループを押し付けられたプロモーターはというと、チケットの売れ行きが悪いと、赤字の幅を予想してやるか、やらないかを決めることになる。この赤字は来年、アースで埋め合わせよう、ってことなんだろう。このあたりの判断は実にドライ。マネージメントもキャンセルに対してウダウダ言うことはない。さすがエンターテインメント大国だと感心させられたものだ。

その日はなにもすることがなくなったので、マリブ・ビーチのリーの家でレコードを聞いたり、波が足元まで寄せてくるベランダで話したりの休息日となってしまった。
「イケガミ、明日のコンサートは<オール・エリア・アクセス>のパスをもらえるようにしといたからね」
それは有り難い!

さて、LAセンテニアル・コンサートの日となった。コンサートは野外で、ロスアンゼルス市庁舎まえの広場に特設ステージが作られている。無料のコンサートだから、多分この広大な広場は聴衆で埋め尽くされることだろう。満杯なら3万人くらいらしい。
ステージの裏には臨時の楽屋が設けられ、外からは見えないようになっている。そのレセプションで全域立ち入りOKのパスをもらい、早速楽屋に。もうメンバーはほぼ全員が来ていて(リーだけがまだ。「あいつはいつも遅れるからなあ」なんて言われてる)、楽器のチューニングをしたり、着替えの準備をしたりしている。ギターの“ジェロニモ“ことハワード・スコットが話し掛けてきた。
「ミスター・イケガミ、ドゥ・ミー・ア・フェイバー・・・」
悪い予感がする。ミスターなんて言われてろくなことはない。おまけに「お願いだからさあ・・・」が付いてるのだ。
「ここはダウンタウンで、ちょっと歩くと酒を売ってる店があるから、安物でいいからコニャック買ってきてくれないかなあ」
それならお安いご用だ。百戦錬磨、歴戦の勇士といえどもコンサート前は緊張するらしい。特にヴォーカリストはステージ前にハード・リカーを飲む人が多いようだ。声が滑らかに出せるということである。
コニャックの紙袋を抱えて楽屋に戻ると、遅刻魔のリーも到着していて、曲順表を見ながらハーモニカを並べ、腰に巻くガンベルトのようなハーモニカ・ベルトに差している。みんなスタジオでの表情とは違って、話はしていてもどこか上の空。ピリピリした感じさえ漂わせている。
「ジェントルメン、あと5分だ。レディ?」
スティーブがガラガラ声でスタンバイを促す。
「Here, We go!」

コンサートの一部始終は第5回目のお楽しみ!

この記事へのコメント

半斤八両
2006年05月20日 20:07
へ~、そんな仕組みになってるとは。
知らない人たちばっかなのにワクワクしちゃうのはなぜ?
torigen
2006年05月20日 20:12
はやっ!半斥さん。

いやぁ、しかし池上兄貴の話しは興味がつきないです(汗)。
その時の空気が読めるんだよなぁ…。
毎度おおきに…。

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