ブログ版 マイルスとの2時間 4

画像
<転がるしか能のないボールで遊ぶ“帝王“>"続きはまたずっと待ってからですよね。(T△T)"(chi-Bさん)
っていわれないように、緊急アップ。前回でやっとマイルスに対面。ここからがアンユージャルなジャーナリストのプライドを賭けた時間が始まるのである!

マネージャーのピーターのすすめもあって、ぼくらはリビングに置かれたソファに座ることになった。マイルスはまたベッドルームに戻り、スケッチブックのようなものを持ってきた。
「お会いできてうれしいです」
と手を差し出すと、無言で手を出してきた。握手の瞬間、マイルスの目はぼくが持参した紙袋に行っている。
「それは土産か?」
「そうです」
ぼくが袋を渡すと、
「いま開けていいか?」
と聞いてきた。(まるで子供じゃないか!)中には”ドラゴン・ボール”というラジコンの、床の上を転がるボールが入っていた。(ボウリングのボールのように見えるだろう)
“帝王“は「なんだこりゃ」というような顔をしている。
「これは日本製のトーイです。ラジオ・コントロールで床の上を転がりますが、それ以外はなにも出来ません」
ぼくはコントローラーを使って、ボールを前後左右に動かした。
「オー、ヤァー?」
マイルスが子供のような表情となった。
「よし、オレにやらせろ」
だが、なかなかうまく動かせない。重心の移動が出来ないので、車のエンストのようになってしまうのだ。
「どうしてうまくいかないんだ?」
ぼくは最初の賭けに出て、思い切って言ってみた。
「どうしてかなあ?ボールに嫌われてるんじゃあないのかな」
またマイルスが、ジッとぼくの目を見た。だが、あの他人を無視するような、冷ややかで高慢な目ではなく、目尻に笑いが浮んでいた。
「ファック・ユー・・・・」
数分後、ようやくボールのコントロールが出来るようになると、ブツブツと呟きだした。
「このボールを使って、ステージの上にトランペットを運べないものかなあ」
「だめですよ、出来るのは床の上を転がることだけです」
みんな、ドッときた。ようやくみんながリラックスしはじめた。
「みんな座れ! で、何か飲むか?オレンジ・ジュースもぺリエもあるぞ」
じゃあ、ぺリエをと言うと、ピーターが慌てて、
「私がやりましょう」
とマイルスに近づく。
「ノー、オレがやる」
ぼくの頼んだぺリエを手にソファに戻ってきたマイルスは、先に右手を差し出してきた。
「サンキュー、おもしろい土産だぜ。転がるだけってのがいいな」
おー、分かってくれたか、第1ラウンドから機先を制するチャンス到来だ。通訳に向かって、
「このチョイスはあなたの存在と音楽に対するものです、って言ってください」
と頼んだ。通訳のマーサは
「エーッ、そんなこと訳していいのかなあ」
と心配している。
「いい。いい。もっと危険なことは後から自分で言います」
というと、ニッコリ笑ってマイルスにぼくの言葉を伝えてくれた。
「ケッ!」
というのがマイルスの反応であった。

「オレに何を聞きに来たんだ?」
「今年の夏、あなたは日本で演奏することになってますが・・」
と言いかけると、マイルスはこちらの質問を手でさえぎり、
「タッ、ターン、タッ、タッ」
とメロディを口ずさみながら立ち上がり、サイド・テーブルに乗せてあったスケッチ・ブックを取ってきた。スケッチ・ブックを開く。そこには顔や、ダンスをしているような人間がクロッキーのようなタッチで描かれていた。
「これは湧いてきたイメージを次から次へとスケッチしたものなんだ。そういう風にドローイングしている時はとてもリラックスできる。ほれ、このモチーフがこっちのモチーフにつながった。で、これが次を生み出すんだ。ところが、ここで電話がかかってきて、シューッ、終わりさ。
いいか、音楽も同じなんだ。わかるか?あるテンポやリズムにのって演奏してると、連続して発展していくが、それがなにかによって中断されちゃうと、終わっちゃうものなんだよ」
”YES"と相槌を打っていると、マイルスがこちらを見た。なにかカウンターを打たなくてはなるまいな。
「ぼくもそう思う。イマジネーションを必要とする作業はみんな似ている」
と言うと、
「ファック!」
と呟き、ぺリエをひと口飲んでまた勝手に話し出した。そうか、ウエイン風解釈をするなら“気に入られた”のかも知れない。じゃあ、好きなだけ話させてみよう。

「昨日の夜、ラジオ・シティ・ホールに”キャメオ”を聴きに行ったんだ。そこで、リーダーのラリー・ブラックモンから、ヤツの曲を渡されたんだよ。前に、オレがなにか作曲してくれって頼んであったもんでね。で、ショーの合い間に、通りの向いのヒルトンでレセプションがあって、ラリーが来てくれというから行ったんだ。そうしたら偶然、昔オレがボクシングを習ってたリー・ブラックっていう男と出くわした。そこでな。”ヘイ、リー、どうしてこんなところに居るんだよ?”って聞いたら、“ラリーはオレの息子なのさ”だってよ。リーはオレにボクシングのダーティー・トリック---肘打ちとかサミング、わかるか?---を教えてくれた男だ。グローブを濡らしてパンチが切れるようにするなんてトリックもあったな。
そういえば、ヤツは当時6歳か7歳の息子をよくジムに連れてきてたんだ。その息子がミュージシャンになりたいって言ってるらしく、リーが相談してきたことがあるんだよ。オレは“音楽なんてドラッグみたいなものだ”って言ってやった。簡単になれるなんて思わせちゃダメだからな。でも、その息子はミュージシャンになって、それがラリー・ブラックモンだったんだよ」
マイルスがなぜ突然、”キャメオ”やボクシングの話をしてきたのか、その理由は分からない。おそらく、機嫌がよかったので思いつくままに語りだしたのだろうが、これはインタビュアーにとっては“タナボタ”のチャンスなのである。セットアップされたプロモーションのための話ではなく、ナチュラルなイマジネーションの展開による世間話が出来るかもしれないのだ。

この記事へのコメント

torigen
2006年08月11日 20:42
わはは、面白い!
マイルスらし過ぎて端の人間は笑うしかないっていうか…。

池上さん、端の人間でなくてコレを読んでる人間でも心臓止まるかも…わはは。
chi-B
2006年08月11日 22:58
一歩出遅れましたがchi-B参上~!YEAH!もう続きがアップされてる。うれしい。この上の写真、絵画みたいに見えます。きれいですね!INTERVIEWもスリリングに展開中で、ますます釘付け、次が楽しみですー!凄いぞJapanese Man!!(Mr.Ikegami)

そして、Cameoは私の好物!あの強烈なあほらしさとコマワリ君そっくりな姿形は今もビデオで見てます。Eroticな音にどうしようもなく魅かれるのは私の性(さが)で、ブーツィーとかGクリントンとか…たまりません~!そしてMilesさんもそのお一人です。「Special Guest is...Miles」買いたくなってきました。困ったわぁ!
泥水飲込
2006年08月12日 11:48
ドキドキですね~読むのも。
で、まだ続くんですよね~?
chi-B
2006年08月12日 21:10
この記事のことをmasta.Gも教えてあげようと、話したら、「アッ、僕、そのオモチャのこと読んだことある!!写真も見たように思うで。ずっと昔やけど。」と言っていました。きっとikegamiさんの書かれた一発目を読んだんだと思われます。とても懐かしそうで、しかも先に呼んでたことでチョッピリ自慢げでした。
IKEGAMI
2006年08月13日 01:53
みなさーん、コメントTHANXです。
3のほうではHoririnさん、久しぶり。夏風邪治りましたか?昼間が暑くてなかなかバース君に会うチャンスも少なくなってきました。曇ってる日に遊びにいきまーす。
chi-Bさん、masta.Gのちょっぴり自慢げな顔が想像できますよ。実はmasta.Gとはかなり接点があるんだけど、時間差で対面してない!山岸御大や清水くん(N.エクスプレスにC社主催ベターデイズ・オーディションのグランプリ差し上げたのはぼくです)など、近い世界の住人なんですよ。近々にそちらのWEB、リンクさせていただきます。
泥さん、まだまだ続きますよー!
chi-B
2006年08月13日 02:43
ぎょっ!そうだったんですか。というか、ikegamiさんほど長く音楽業界で仕事されていたら当然と思うほうが自然ですよね。私個人的にもDr.KOにはとてもお世話になってます。曲が出来ると送ってアドバイスもらったりしています。LIVEにもときどき招待してくれはって、$のない身には非常にありがたいのです。L.A.で初めてKOさんと直で喋ったときに、「歌やろうと思って…」と言ったら「お~。ええやん!やりやり!」と言ってくれたミュージシャンです。リンクしてくださるのですか。ヨロシクお願いします。masta.G喜びます。うれし~。
torigen
2006年08月13日 08:48
広がるなぁ、ネットの輪。わはは。
Gさんと池上さんが話してる図ってのが今ひとつ脳の中で展開できない(わはは)のだけど、面白そうだなぁ!
対面ドキュメント企画!やってみる?
泥水飲込
2006年08月13日 09:19
あら~マスタGとも~世の中狭いような。
私はゴンちゃんを連れて嫁の実家に。場所がちがってものんびりしているんでびっくり。
楽しそうにしてるんでよかったです。
自宅から持ってきたマイルスのCDは~フォア&モア。あっ、記事と時代が違うな~。
連日納豆
2006年08月19日 03:14
読んでいるだけでチビリそうになりました。
IKEGAMI
2006年08月19日 07:40
おお、クロスオーバー偽装の納豆建築士だあ。
WEB、アップしてましたね。偉い! ぼくみたいな風来坊仕事じゃあないもんね、大変ですよ。家を建ててみて、初めて建築士の仕事の大変さが分かりました。嫌な施主もいるだろうし。
「結婚できない男」の変人建築士はなかなか面白いですよ。納豆さんは「できてる男」なのかな?
引越し荷物に紛れ込んでた「ガッド・ギャング」のテープ、出てきたんでまもなく送ります。
マイルスの次回では、漏らさせますからね!
IKEGAMI
2006年08月19日 07:45
泥さん、「フォア&モア」もいいアルバムです。もし、安い中古を探すなら『プラグド・ニッケルのMD』がハード・ブローイング期マイルスのお薦めライブ盤です。
池袋のラーメン屋の話、Toriさんとこに書けばよかったかなあ。こっちのSALONに書いたので、埋もれちゃったみたいですね。
連日納豆
2006年08月20日 00:09
>IKEGAMI様。テープありがとうございます。楽しみにお待ち申し上げております。マイルスの5も楽しみ。ちびらないかどうか心配です。
・・まだ数枚の写真しか拝見しておりませんが、なかなかモダンな新居ですね。建築の設計屋とは、一部の特権階級の方々をはぶいてはかなり地味な業種です。サービス業の要素も多分にあります。しかも一般的にはあまり儲かりません。マイルスほどのカリスマ性があれば話は別ですが。
で、私が「できてる男」なのかどうか?いやあ、毎日納豆食ってるくらいですから。

この記事へのトラックバック