ブログ版 マイルスとの2時間 5
ずいぶん間があいたが、マイルスのインタビュー5を載せよう。なかなか音楽の話にいかないところがぼくのインタビュー・スタイル。5ではどうなることだろう・・・。4はキャメオとボクシングの話を振られたところで終わっていたはず。マイルスのボクシング好きはみんなの知るところ。少しそっちに寄り道できれば面白そうだ。
「実はぼくにもボクシングについての興味深い話があるんです。知り合いにボクサーがいて・・・」
と話し出すと、すぐに反応があった。
「ヤァー? お前もボクシングやってたのか?」
「少しだけ」
「そうか、オレはボクシング大好きなんだぜ。あれはカッコイイ」
もちろんマイルスのボクシング好きのエピソードは知っている。リングの上でボクサーの格好をした写真を使ってるくらいなのだから。だが、彼とボクシングの話には持って行かずに、こちらの話をしてしまうことにした。
「ぼくの知り合いのボクサーは、7月7日に世界ウエルター級チャンピオンに挑戦して、7回にTKOで負けちゃったんです」
「ふーん、アンラッキーなセブンだなあ」
「そう、3回くらいに一発いいのをいれたんだけど」
「誰とやったんだ?」
「ブルース・カリーです」
「ん? ドン・カリーじゃあないのか?」
「いや、ドン・カリーの弟のほう」
「そういえば、兄弟で世界チャンピオンだったな、あいつらは」
マイルスと音楽以外の共通の話題が持てるというのはかなり気分がよいものだ。
「お前、どうしてそんなにボクシングのこと知ってるんだ。音楽ジャーナリストじゃあないのか、職業は」
それには答えず、カウンター・パンチを打つ戦法を続けようと思った。
「ぼくも、ミュージシャンのくせにボクシングのことをすごくよく知ってる男を知ってるよ」
「ケッ! それでお前の知り合いはどうしたんだよ」
「そいつのジム・ワークの時の音楽をぼくが選んでテープに入れて送ってたんです。で、サルサとかサンバと、マイルスの音楽を送ったんだけど、どういうわけか、マイルスの音楽だとうまくフットワークが使えないって言うんです。やつのフットワークはどちらかというと固くて、サルサなんかだとピョンピョンできるんだけど、バック・ビートの利いた音楽はダメなんです。まあ、これは彼だけじゃあなくて、日本のボクサーの特色でもある」
「どういうことなんだ、よくわからないぞ、オレには」
そこでぼくは立ち上がり、ボクシングのフットワークを実際にやって見せた。
「シュガー・レイなんかはこういう膝の使い方するでしょ。ところが日本人はこういうのが多い」
「なるほどな。ところで、オレのアルバムの何を送ったんだよ?」
「“オン・ザ・コーナー”!」
「ケッ、そうか。あれはボクシングのステップにはいいはずなのになあ。おかしいなあ・・・」
マイルスはぶつぶつ言いながら、自分も立ち上がってきてボクシングのファイティング・ポーズをとる。
「お、アグレッシブ・クラウチング・スタイルだ!」
と言ったら子供のような笑顔になり、
「お前、ホントによくボクシングのこと知ってるなあ」
両手をひろげて呆れ顔になった。
音楽についてのインタビューとなる気配はまったくないのだが、こうなったら毒を食らわば皿まで。あちらさんはぼくの職業とインタビューの目的を知ってるのだから、成り行きに任せて自然に音楽の話になるまで待つことにしよう。
「アグレッシブであることは大切なことなんだ、わかるか?」
「はい。マーヴェラス(マーヴィン・ハグラーのこと)はアグレッシブであることを忘れたから負けたんじゃあないかな」
何ヶ月構えに、ハグラーは大方の予想に反してレナードにタイトルを奪われてしまった。マイルスはあの世界戦をどういうふうに見ていたのだろうか。
「そうだ。それと、ハグラーは自分の置かれた環境、ポジションを忘れたのさ。だからすべての流れがシュガー・レイの方に行っちゃったんだ」
この発言は音楽を語っているのに等しい。おそらくステージの上でこの“帝王”は、自然な音楽の流れを考えながら若い共演者に指示を出しているのだろう。“音楽も・・・”と言いかけたら、ぼくの言葉を遮りまた勝手に話し出した。
「日本人がオレの音楽でフットワークを作れないって言ったけど、オレの考えじゃあ日本人ってバランス感覚が世界一いいと思うんだけどなあ」
と言って、空手の構えを示すのだ。そうか、まだ音楽の話をする流れになっていないのか。ぼくは再びボクシングの話にテーマを戻した。
「マイルス、それは空手とかマーシャルアーツのバランスで、ボクシングのバランスじゃあない。ボクシングはもう少し重心が高くないとダメなんじゃあないかな」
「うーん・・・」
しばらくの間、ぼくたちはシャドウ・ボクシングをしてソファに戻った。そろそろ潮時だ。話のテーマをチェンジしたい。
「ひとつの民族は必ず自分たちのリズムとバランス感覚を持っていると思うんです。それはスポーツも音楽も同じことでしょ?」
「そうだ。お前の言葉で思い出したけど、昨日、ポーランドで飛行機事故あったろ。テレビで犠牲になった人の家族を映してたけど、みんな同じ表情をして泣いてたぜ。話す言葉と顔が密接な関係を持ってるって知ってるか? フランス人、特にフランスの女(!)は顎が前に出てるよな。あれはフランス語の発音からくるものなのさ。そういうものなんだよ。
ところで、お前、オレに何か聞きたいことがあるんだろ?」
来た。やっと来た!それではストレートに行こう。
と今回はここまで。また音楽の話に行き着かなかった。ははは。
この記事へのコメント
で、ボクシングの話、だけ!ですね。わはは。
さて、ボクシングと音楽がどう繋がるか?
ちなみにオン・ザ・コーナーは私が最初に買ったマイルスのアルバム。
次回こそ音楽の話となりますが、音楽と同じ感覚でスポーツ、美術、ファッションの話しができる格別の時間でした。
エディー・タウンゼントが出てくるとは、見てますなあ! この5に出てくる「知り合いのボクサー」は(分かってると思うけど)“浪速のロッキー”こと赤井英和です。ジム・ワークで使えそうな音楽をテープに入れて送った時、1本だけダニー・ハザウェイを入れて「まだ無敗だけど、ずーっと先に負けたときに聴くと次に進むエネルギーが出ると思います」って書いたら、「勝ち続けてても、ごっつういいです!」っていう葉書が届きました。世界戦で負けた後、再起戦で脳出血を起し、引退に追い込まれましたが、その時に聴いたかどうかは定かではありません。グリーン・ツダ・ジムはまだ、天下茶屋の路地奥の小さなジムでした。
明日から犬と親を連れて4日間沖縄です。帰ってきたら、ながーい6をまとめます。
多分、音信不通とは思いますが、ジムの関係者に聞いてみたらどうでしょうか。