ブログ版 マイルスとの2時間 6
第6話にしてようやく音楽の話になりそうなインタビュー。音楽の話に到達するまでに費やした時間は約50分。この間、マイルスはぼくの言葉に対しはぐらかしたり、正面からまともに答えたりが繰り返された。まるで、ぼくの反応をテストしているかのような感じなのだ。ピーターの顔を見るとニコニコしてるから、インタビューの流れは悪くなさそうだ。相手があの「帝王」だからすんなりいくとは思えない。さて、どうなることやら・・・。
「日本で演奏するメンバーを教えてください」
「えーと、サックスがケニー、ケニー・ガレ・・・じゃなくて、ピーター、ピーター!」
ピーター・シューキャットがパッとマイルスの傍にやってくる。
「ケニーのラストネームはなんだ?」
「ギャレットです。ギターは・・・」
「いい。オレが答える。ケニーのラストネームを忘れただけだ。ケニー・ギャレット、ロバート・アーヴィング、アダム・ホルツマン、んー、それとダリル・ジョーンズ、ジョー・フォーリー・マクレアリー、それにミノ・シネルだ」
「7人ですか?」
「いや、8人だ。そうだ、ドラマーはリッキー・ウェルマン、それにオレだ」
「どんな演奏を? サムシング・ニューなことはありますか?」
「オレはいつだってサムシング・ニューなことにチャレンジしてるさ。リッキーを加えたのはゴー・ゴー・ビートをやるためなんだからな」
「ゴー・ゴー・ビートって、ワシントンD.C.の?」
「そうだ。よく知ってるなあ。ファック・ユー・ノウ・ザット!ドラマーはチャック・ブラウン&ソウル・サーチャーズでやってたんだ。今、オレがいろんなやつに曲を書いてもらってるのは、ゴー・ゴー・ビートとかレゲエをやろうと思ってるからなんだぜ。ラリー・ブラックモンに頼んだのはレゲエの曲さ。そうだ、ラリーのマネジャーはチコ・ハミルトンの息子だったな。初めて会ったのは、こいつが13歳の時なんだ。オレはオヤジのチコと友だちなんで、こいつにハムのラジオを買ってやったことがある。けどそんなこと忘れちゃったのか、しっかりとビジネスをやりやがって、ラリーの曲に高い金を要求してきやがった。やられちまったよ」
どうやらマイルスは自分の考える新しいチャレンジの方向に沿って、何人もの若いミュージシャンに曲を書かせているらしい。
ラリー・ブラックモンのデモ・テープがかかっている間、マイルスはリビング・ルームの中を檻の中の猛獣のようにウロウロと歩き回っていた。その目は新しいバンドの曲をどうやってまとめようか考えているようで、曲のブリッジ部分になると立ち止まり、手でリズムを取っている。
「どうだ、面白いだろ! さっき電話で送られてきたのはジョン・ビガムの曲なんだ。マーカスにもラリーのテープとレゲエのテープ、それからアフリカの“ズーク”っていう音楽のテープを渡して、ブランニューの何かを書けって言ってある。去年、あいつと『TUTU』を作った時もこういうやり方でやったんだ」
ボクシングの話で盛り上がった後なので、マイルスは自然にアイデアのディテールについて話し始めた。彼は自分の過去について話すことを極端に嫌う。だが今日の感じだと、音楽の作り方という点から突っ込めば『TUTU』やそれ以前のことも話すに違いないだろう。
「マーカスも『TUTU』はすごく楽しかったって言ってましたよ。ブランニューなものを作っていくなかで、新しい自分のサウンドが見えたって」
「オー、ヤー? あいつは才能がある。だからオレはいろんな要求をするんだ。『TUTU』の時はマーカスだけじゃあなくて、ジョージ・デュークにも頼んで『バックヤード・リチュアル』って曲をもらったけど、オレはマーカスとやり取りをしながらあのアルバムを作っていったんだよ。まず、マーカスは『TUTU』を書いて電話で送ってきた。で、次にレゲエの曲を書けって言ったら『フル・ネルソン』を送ってきたんだ。それから、オレがトミー・リピューマのために『トーマス』って曲を書いたのさ。スクリッティ・ポリッティみたいなのをやろうと思ってな。うまくできたよ。でも、次に日本でやるのはもっと新しいことだ。『TUTU』の曲は1年間やって飽きちゃったからな。
マーカスってやつはオレが何をやりたがってるか、すぐにわかるやつさ。だから“マイルス、あんたの好きなスタッフ(*STUFF)を送ってくれ”って言ってくるんだ。『TUTU』の時もそうだった。オレがカリプソみたいなのをって言ったら、すぐに8小節くらいのを考えて送ってくる。それに新しいアイデアを加えて仕上げていったんだよ。カリプソとレゲエはとても近くにいて、結婚させることもできるんだぜ。それにゴー・ゴー・ビートを加えりゃあ刺激的なリズムになるだろ?」
「マイルス、あなたは何十年もそういうふうにやってきたよね」
「そうさ、ブランニューなものを求めてな。ゴー・ゴー・ビートにしたって、オレは何年も前にもうやってたんだ。“ボン、ボボン、タツツ、タツツツ、タツツ・・・”みたいなやり方だったけど、今度はこれにバックビートを利かせるんだ。オレは“ハーフ・シャッフル”って言ってるけど、カリプソ、レゲエ、ゴー・ゴー・ビートが一体になってハプニングするリズムにするつもりだ。書かれたものをストレートにやるだけじゃあ何も起こらない。寝てるドラマーを起こすようなリズムにしなきゃだめなのさ。どうだ?」
「いやあ、夏の日本でのコンサートが楽しみです」
「そうだろう。オレだって楽しみにしているんだからな。そのためにラリー、マーカス、ジョンたちに曲を書かせているんだ。オレはやつらが作る部分に、新しいパートを加えたりしてカッコイイ全体をまとめるのさ。これがオレのやり方なんだよ」
意外にも、“帝王”は親切に自分の音楽の作り方を細やかに語ってくれたのである。さらに面白い話がマイルスの口から飛び出すのだが、それは次回のお楽しみ!
この記事へのコメント
帝王相手にIKEGAMIさん…(汗)。
でも、読み手にとっては凄く面白いしMiles Davisの人となりが窺えて楽しいです。
次はいつかな…。
誰もが認める帝王。
こんな、メンバーや音楽の話まで行くまで、色々と観察されていたんですね。そして、話し出したと。
で、もっと面白い話、かぁ。ふんふん。わくわく。
何か、この言葉だけでも既に飛びました。
マイルスの凄さは、トランペットを吹かなくても、んー、手に持ってなくても、歩いてるだけでも、音楽を感じさせるところにあります。
人によってその音楽は「クール」だったり、アルバム『プラグド・ニッケル』でのブロウイングのようにホットだったり、いろいろだと思いますが、それは並外れた音楽への献身と集中力が作り出した「伝説」故の作用でしょう。
そんなマイルスの雰囲気を味わっていただければ幸いです。次回からはもっと面白くなります・・・ナーンチャッテ!
ほぇ~!(笑)スクリッティ・ポリッティが出てくるんだ!(笑)これだからマイルスは面白い。
音楽への貪欲さと頑固さ。ミュージシャン扱いの巧みさ。猛獣使いですよ。並みの人間には無理。
<寝てるドラマーを起こすようなリズムにしなきゃだめなのさ。どうだ?>
ははぁ~~~。仰せの通りで。m(_ _)m