EMOTIONAL SKETCH 6 ブレッカーの思い出 #1
1月13日、病気療養中だったマイケル・ブレッカーが亡くなった。しばらくして、渡辺香津美さんから電話がきた。彼がパーソナリティを務めるNHK FMのジャズ番組「ジャズトゥナイト」のゲスト出演依頼の電話だった。2月10日放送分をマイケル・ブレッカー追悼にするというのだ。80年代の初頭から半ばにかけて、ぼくは渡辺香津美とマイケルの共演に立ち会う機会が多かったので、その思い出話を含めてマイケル・ブレッカーの音楽について話そうということになった。
マイケル・ブレッカーは昨年の初夏に再結成されたステップス・アヘッド(リーダー:マイク・マイニエリ)のメンバーのひとりとしてJVCジャズ・フェスティバルに出演予定だったのだが、その前日に「骨髄異形成症候群(MDS)」という診断宣告を受け、療養生活に入っていた。MDSという病の深刻さを知らなかったぼくは、「あのマイケルのことだ、そのうちにポリポリと首を掻きながらカムバックするだろう」と思っていたのだった。というのも、80年代に彼は再起不能といわれる病気を患っていて、「奇跡的」なカムバックを果たしたことがあるからだ。だが、今回のマイケルは帰ってこなかった。
前の病気は気管が伸びて戻らなくなるもので、本人は深刻な気持ちを押し隠して「サックスの吹き方が悪いからなんだよ」と冗談を言っていたのだった。だが、「治ったら、自分がやりたいことを大切にしようと思ってるけどね」とも語っていた。この言葉を聞いて、ぼくはマイケルがパーソナル・リーダー・アルバムを作る日が近いと感じたのだが、最初のリーダー作が発表されたのは80年代後半になってからであった。
ぼくがマイケル・ブレッカーと話すようになったのはステップス(ステップス・アヘッドの前身)の日本公演以降のことだ。(ぼくは渡辺香津美TOCHIKAツアーの時から、マイニエリとは妙にウマが合って、NYに行くたびに会って話を聞いたりしていた)マジソンスクエア・ガーデン横のマネジャーの家にメンバー全員が集まり、日本ツアー用プログラムのためのインタビューをすることになった。当時、日本のレコード会社は大きくなりだしたレンタル・レコード・ビジネスによって売り上げが減少する悩みを抱えていて、メンバーの口から「レコードは買って聴いてちょうだい」と言わせたがっていたのである。
で、ぼくは「日本のレコード・ビジネスは深刻な問題に直面している」といって彼らからコメントを貰おうとした。意外なことに真っ先に発言したのがマイケルであった。
「いいんじゃないかなあ。お金を持ってない若い人たちがレコード聴けるようになるんだから。いいシステムだと思うよ!」
質問の背景を理解していたメンバーがのけぞった。リーダーのマイク・マイニエリはレコード売り上げの減少と、それにともなう印税の減少についてマイケルに説明を始めた。だが、マイケルは顔の前で手を振って、
「勿論、分かってるさ。でも、もっともっと多くの人にぼくらの音楽を聴いてもらうことのほうが大切さ。レンタル・ショップからパーセンテイジを徴収すれば問題は解決するでしょ」
と持論を披露し、譲らないのだ。さすがフィラデルフィアの弁護士の息子である。
インタビュー後、メンバーはマネジャーが用意した軽食を食べながら三々五々談笑していたが、ぼくはあくまでピュアーに音楽の流通について考えを述べてくれたマイケルと話したいと思い、コーヒー・カップを手にカウチに誘った。そこでいろいろと話をしたのだが、ぼくがこのPostで紹介したいのは、彼の自分の演奏に対する強い探求の意思である。
そろそろ自己名義のアルバムを出してもいいんじゃないかというぼくに対し、彼は冷静沈着な語り口で答えてくれた。
「まだ、もうちょっと自分の音を出せるようになってからにしたいんだ。やるからには、後でああすりゃよかったとか思いたくないんでね。ひとつの音、ひとつのフレーズを、何も考えないで出せるようになったら作るよ。それまで待っててもらいたいな」
学生が言っているのではない。世界中のサックス奏者がコピーするような演奏をしているマイケルの言葉である。彼の横でフリーズ状態になるほど感動したことを、いまでもはっきりと覚えている。言葉が出ないでいるぼくに彼が聞いてきた。
「ぼくのことよりカズミ・ワタナベがどうしているか教えてよ。ブレッカー・ブラザースで行く機会があったらゲストで弾いてもらいたいんだ。実はね、彼の弾くギターみたいにサックスを吹きたいと思ってるんでね」
(続く)
この記事へのコメント
やっぱ「カズミ・ワタナベ」なんですよね。
ATOKだと、「カツミ」は香津美に変換するけど、「カヅミ」じゃ出てこないんですよね。
関係なくてごめんなさい。
プレイヤー仲間、って言うのかな、いいですよね。
私たちはリスナーとしての立場から云いたいことを云ってますけど。
ヘヴィメタル~を初めて聞いたときのこと、覚えてるわ、私。
今日偶々 西荻の友人との会話から、彼女がかつて「アケタの店」の常連であった事や、ギターの渡辺香津美氏、ドラムの森山威雄氏の名前がポンポン出てきてびっくり!
音楽はその時代まで思い起こすため、話がはずみました。番組のこと教えます。
半斤さん、ぼくの次の予定はクリオールについてです。「アメリカ黒人とジャズ 3」で書きます。
Horiさん、chi-Bちゃん、ホント、世の中狭い。悪いことは出来ないものだと思いつつ、悪いことしかできません。アケタの常連って、相当なジャズ・ファンですよ!なにしろ日本で一番狭くて、汚い店ですからね。masta.Gとは同じ空気吸ってますよ。六本木ピットインとか。
髪の色が、ずいぶん落ち着いたなーと思って。
10日は残念ながら、都内にいなくて、ラジオも聴けない状況なのですが、きっと、楽しい追悼番組になりそうですね。来週にでも詳しく伺いたいです。
待ってましたぁ!って一番反応が遅かった(汗)。
彼の“らしい”話し振りが何とも言えず…想像していた雰囲気そのまんまだったんだぁと妙に感じ入りました。
そっか、香津美さん的ギターのようにサックスを吹きたいと…。
ますます土曜日が待ち遠しくなって来ます。
写真、仰せの通りです。最近髪の毛を染めてないので、ほとんど渋谷さん状態。赤毛ハレハレのヘア・マニキュアは手許にあるんですがねえ。
>horiさん(一字違い! 紛らわしいなあ)
その折は、アケタ常連の旧友さんもどうぞ。なにしろ、ぼくにとっても「箱根でピンク・フロイドを聴いた」仲ですから。あそこに集まった人は、もうずいぶん死んでしょうねえ。
某ギタリストにギター持ってうちに来たら、ロマネコンティ社のエシェゾーを開けるぞっていったら、即YES。酔っ払わせて「アル・ディメオラ風星のフラメンコ」みたいな隠し芸をやらそうという企みです。で、「Toriさん東京までくる?」って書いたのが何故か消えてました。Toriさんの後にHoriさんって書いたから、(一字違い! 紛らわしいなあ)って入れたんです。意味通じたかなあ。
い例の2トラサンパチの音源聴きたいです~。
続き、待っています。
なんだか、IKEGAMIさんがパワー炸裂すると関係のサイトがみんな盛り上がってるし…わはは。
Ikegamiさんの声ってどんな声なのでしょうか?後ろ姿のお写真で色々想像しております。明日の放送をとても楽しみにしています。
泥さん、「星のフラメンコ」のことでしょ。うん、前に書いた気もする。でも今回書いたつもりになってたのは、DRCワインで釣ろうとしてるプライベート・コンサートのことです。で、「Toriさん東京まで来る?」って。泥さん誘うと車飛ばしてきちゃいそうですね。
Jさん、了解でーす。(と言いつつ、いつも遅くなります)
IKEGAMIさん、そうですか?ご自分の声…じつは私も初めてカセットレコーダーなるものを親父が買って帰った時、当時マイクロフォンも付いていて、何かしゃべってみろ!って親父にそそのかされて録音し、この世に生を受けて初めてスピーカから流れる自分の声に驚愕したのを覚えています。そのトラウマが音楽関係の道に進むのは無理だと思わせる伏線になっているのだろうと今でも何処かで思ってるフシがあります(汗)。
chi-B's blogで番組紹介してますヨ。
でも、MDって80分しか録音できないんですって?知らんかった~。
私の家もFMチューナーがないので、ラジカセで録音します。何十年ぶりかで120分カセットとか買ってきましたよ。
しかし、私もリアル・タイムでは聴けてません(汗)。
某所でデジタル録音進行中であります!わはは。
お袋のラジカセで聴いてますっ!わはは。
いやぁ、IKEGAMIさんの声を聞くのは初めてだったですが、何をおっしゃる、男前な声にビツクリしました!
で、内容も超面白いです!わはは。
これは、永久保存ですね!
この人、あの MAX・パパ??
番組の中ではCD化されてない曲もかかっていたので、ラジカセなんかで録音してしまったのが悔やまれます。今度FMチューナー買ってきます。
実は月~金で番組持ってた時も、自分の放送聴いたのは片手で足りるくらいでした。あの人の声嫌いなんです。放送はオリンピックと同じで、参加することに意義あり、でしょ? 別の言葉で言えば「旅の恥は掻き捨て」、「あとは野となれ・・・」。例えをもうひとつ。「音楽(言葉)はそれが出された瞬間に空中に消えていく」とエリック・ドルフィーも申しております。
とにかく、皆様におかれましては深夜までお付き合いくださり、感謝の言葉もありません。Thanx & Good Night!
http://www5e.biglobe.ne.jp/~wadyfarm/nikki8.html#nikki070211
分割して入れておきます。
http://www5e.biglobe.ne.jp/
~wadyfarm/
nikki8.html#nikki070211
リンク飛べませんデス(汗)。
私、IKEGAMI's Voice遭遇は初めてだったですけど、なんだか渋谷さんの声を思い出しました。落ち着いたお声で真面目に話してる?IKEGAMI's Voiceに驚きました(汗)。
おそらく、qoopapaさんはぼくより1.5世代若いんじゃないかな。そんなqoopapaさんが4ビート・ストレート・アヘッドなジャズを好まれたっていうんだから、かなりの変人とお見受けします。
でも、多くの人が仕事を持つようになるとジャズ(に限らず趣味の世界のもの)から遠ざかります。これは当然のことです。いい年して、ジャズがなけりゃ生きていけないなんて言ってたら気持ち悪いですから。ただ、生活の時間の中で何度かジャズが心の何処かに姿をあらわすことがあると思うんです。そのタイミングの問題だけなんですよ。もし、今回の放送がきっかけになって再びジャズを聴いてくださるようになったら、これ以上の喜びはありません。
みなさん、どうぞqoopapaさんのエッセイを読んでみてください。ジャズ、という言葉を任意の趣味対象に置き換えれば、未来が見えてくると思います。ぼくのLINKのなかの「東京レトロを行く」から入って、BBS→雑感ジャズファンからでもOKです。それにしても、ドクターの専門の病気でマイケルが亡くなるとは、ホントに皮肉なものです。
ぼくのLINK項目から入ってください。そのヲタぶりにぼくは声を出して笑ってます。
昨夜のは香津美くんの番組で、ぼくはゲストですからねえ。自分の番組だったら、もっと狼藉オンパレードです。ほれ、社会的マナーが備わってるもんで・・・。
LINK項目って LINK & INTRODUCING!の事ですか?(汗)
何処にあるのかわかんない、わはは。
あっ、それと月金の帯でやってたIKEGAMIさんの番組名ってなんでしたっけ?Andyさんの質問なんですけど…。
LINK & INTRODUCINGの一番最後(下)から2番目です。
番組は「ライブ・フロム・ザ・ボトムライン」で、chi-Bブログで、ちょっと触れてますよ。
×即席→○足跡
今ドライアイがひどいので、すみませんm(_ _)m
私は今、StepsとSteps AheadのCD,DVD大人買い中です。失礼お許し下さい。
私も、彼のはいつでも買えるとタカを括っていたんで今必死に検索などして探してます。結構手に入らなくなってるものもあって、難航してますけど(汗)。
ファンが元気ってのはたぶん彼も喜んでくれていると思います。
IKEGAMIさん、了解しました。
しっかしこうやって番組で知った池上さんのブログにカキコできるなんて光栄です。ドライアイひどいので、日記本文プリントアウトして読んでシビれてます。続きが楽しみ♪えーと、誤解のないよう申し添えますが、私はFusionもJazzも分け隔てなく好きです。
今回の#1ではマイケルの演奏のディテールについては書き切れませんでした。コルトレーンの影響を受けた「ニューヨーク派」については#2に書くつもりでいますし、渡辺香津美さんとの付き合いについても触れたいと思っています。どうぞまたお寄りください。
>泥さん マスターテープはKW氏のところにいってます。デジタル落しができたらエルバーグの2回のソロ、コピーできると思うので気長に待っててください。
>連日納豆さん いろいろとありがとうございます。宣伝までしていただいて。最近、頑張られてますねえ。レビューを急がせると、現場で手抜きになったりするから急かせません。マイケルとマイルスが終わったら、WARの残りとマイク・マイニエリ、ホワイト・エレファントと、ぼくも課題に追われています。互いに頑張りましょう。
夫ともども続きが気になりますので、ぜひまた寄らせていただきます。
今日はゴンちゃんの散歩以外には出かけずに、次男の相手をしたり、長男の勉強をみたり、で、P・アースキンのソロなんかが棚から落ちてきて。引っ張り出していた昨夜のエアチェックで使用のラジカセで再生したりして。メンツを見るとランディもマイケルも、、、
一体どれだけの数のクレジットがあるのか!本人も知らないんだろうなぁ。
死んでますか~、死んでません、
っていうの知ってる?
>死んでますか~、死んでません、
知らないよお! 古澤ギャグじゃあないのかな?渋谷さんは死にません。「憎まれっ子、世に・・・」って言うでしょ。
宴会のスケジュール決定のため、これから渋谷さんの予定を探って見ます。
masta.G コメントありがとうございます。#2ではGさんがchi-Bちゃんに聴かせているマイケルの「垂れ流しフレーズ」について書くつもりです。藤井寺市民会館ですか。近々にKW氏と会う予定なので、メッセージ必ずお伝えします。
こちらでは(も)、初めまして!♪Gパパさん家 => ♪torigenさん家 => ...で、お邪魔してます!
MR.IKEGAMIの放送、佐賀で楽しく拝聴いたしました!レンタルレコードの話、面白かったです~♪
Mr.Michael Breckerの Music is not a concession. という考え方を知って、すごく嬉しかった!
Music is feeling and emotion. It's a thing that I go through everyday in my life. なのですもの^^
こちらにも、またお邪魔させてくださいね^^ ありがとうございまっす!(HUG HUG)
♪皆様も、楽しいお話をありがとうございまっす!
出張先でお聴きくださってありがとうございます。
近所の犬仲間の、あえて名を秘す某BASSママ(ちっとも秘してないか)も、出張中の仲間にメールしてくれました。出張先の夜って、飲む以外することないから、って。ところが、ホテルのラジオはAMだけだったそうです。
早くブレッカーの#2を思ってるんですが、今、マイルスの方が編集BOXに入ってるんで、そちらを早く仕上げます。待っててください。
また遊びに来てくださいね。
わはは、「普段のよたよたした番組作り(それが香津美らしくていいんですが)」言えてる!!!
もっとよたよたしそうな渋谷さんっていう人もいます(笑)。ホントはアメリカみたいに、一日中亡くなった人の音楽を流しつづけるFM環境があって、で、どこかの局がトークで、っていうようになってたらいいんですけどねえ。ぼくはビル・エヴァンスがなくなった日にNYにいましたけど、WBGO(当時、NYでいつもジャズが聴けるのはニュー・アークのこの局だけでした)で、ノー・トークの音楽を聴いて、彼の死を知りました。聴く人それぞれに想いはさまざま。
どんなに情報化が進んでも、情報を送り出す人の質が高まらなければ何も生まれません。ハイ・クォリティ情報の少子化時代にならないようにしたいものですね。
また遊びにきてください。
おっしゃるように、どれほどメディア技術が発達しても、発信する人間の質を変えるわけではありませんもんねぇ。
このブログ始めてから、えーー、っていうこと多いんですよ。
あの時は、当時ぼくが喋ってた「ライブ・フロム・ザ・ボトムライン」のNY取材でNYにいました。前日の深夜にFM東京から電話があって、呼び屋さん情報によるとビルが危篤らしい、出演してる「ファット・チューズデイ」も2日前からキャンセルになってる、追悼番組を用意してるから真偽と関係者のコメントをもらってきてくれ、と連絡があったのです。
そうですか、あのチャーチに。NYに住んでいらっしゃったのかな?H/Nからすると日本料理店にお勤めだったのかなあ、などと推察しております。
Stepsの最初の2枚(Step By Step、Smokin' In The Pit)のアルバムはここ日本で録音されています。また、ライナーノーツもIKEGAMIさんが書かれていますが、Steps結成にIKEGAMIさんは何らかの形で関わっていたのでしょうか?70年代クロスオーバーブームの終焉にとどめを刺したとも言えるStepsとIKEGAMIさんとの関わりについて、いずれ教えてください。
70年代クロスオーバーのWEBに敬意を表して、マイク・マイニエリとSteps (Ahead)のPost前編をアップしました。ブレッカーの#2が出来てないのに、こちらをまとめるのはちょっとなんですが、まあ、流れということで・・・。
Stepsの結成については重要な役割を果たしたわけではなく、周辺でヘラヘラしてただけですが、いきさつは目撃してますので、後編でまとめます。この結成の導火線となったのが渡辺香津美さんの存在でした。ま、そのへんはPostで、ということで。